第1章 序論
第1節 はじめに
私は今回、韓国の教育制度について研究した。私がこのテーマについて研究をした理由は、今年の8月に韓国の建国大学に1ヶ月間ほど留学した際に学生たちの勉強に対する意識に驚かされたからである。8月は韓国の大学生も日本の大学生と同様に夏休み中であるが、私が大学の図書室に行くと自習をしている学生が多数見受けられ、満席になる日も珍しくないそうだ。そして、留学中に私たちのサポートをしてくれたチューターに、チューターを始めたキッカケを聞くと、「語学は机で勉強するよりも、実際に使った方が早く覚えるから。」と、やはりこれも勉強の一貫として取り組んでいる学生が多かった。チューターにも日本語担当のチューターと英語圏担当のチューターに分かれていたが、日本語担当のチューターは日本語はもちろん堪能であったが、TOEICでも700点を超えており「これでもまだまで韓国では低いスコアだよ。」と言っていた。英語圏担当のチューターもカタコトではあるが日本語を話せる学生もいた。さらに、大学に行きながら塾に通う学生も多く見られ、これに加えて4回生になると就職活動もしなくてはいけないそうだ。彼らに「なぜ、そのように勉強を一生懸命するのか?」と尋ねると、彼らは「大学受験の時の習慣が抜けていないだけ。大学生だからホントはもっと遊ばずに勉強しなければならないと思う。」と答えていた。日本の大学でこのような光景は見ることは少ないためとても驚いたと同時に、韓国の教育文化と教育制度について関心を持った。
確かに現在の韓国社会は極度の学歴社会であるために大学受験はとても重要視されている。そのため、学生と勉強は切っても切り離せない存在となっている。これには韓国の受験と就職という背景が大きく関わっているのではないかと考えたため、このテーマについて研究した。
第2節 問題提起
ではここで実際に何が問題とされているのか詳しく見ていきたい。はじめにでも述べたように、韓国の受験戦争には就職という背景があるとしたが、近年韓国では高学歴層の就職率が必ずしも高いわけではなく、海外留学が盛んになっていることと、各種の競争緩和政策が効果を発揮しだしていることに伴い、『就職難民』や『高学歴アルバイト族』といった就職できない学生や院生が急激に増加し始め、後を絶たなくなったため社会問題として取り上げられた。こういった現状があるにも関わらず、1回の試験に人生を左右される構造にはあまり変化がないどころか、さらに熾烈になっている。これによって受験生は幼い頃から自由時間を犠牲にして、過酷な受験戦争を戦う不健康な生活を送るため、受験生の負担軽減が課題となっている。10年前に修学能力試験における携帯電話を使ったカンニングが発覚し社会問題となった際には、改めてその問題が再認識されたのである。
そこで韓国の教育制度や就職状況などの現状を理解した上で、このように過酷な受験戦争を戦う韓国の受験生の負担をどのようにして軽減していくのか、次の章から述べたいと思う。
第2章 韓国の教育制度
第1節 韓国の教育制度の現状
まずは韓国の教育制度について詳しく見ていく。韓国の教育制度は初等学校(小学校とも言う)6年、中学校3年、高等学校3年、大学4年であり、現在初等学校と中学校は義務教育である。初等学校と中学校は給食費や運営会費以外の授業料は無償である。全国にある5384校の初等学校のほとんどが公立であり、中学校数は全国で2809校が存在しており、韓国の公立と私立の比率は3:1である。英語教育は初等学校3年生から開始され、韓国の高校では英語以外に第二外国語教科があり、中国語、日本語、ドイツ語、フランス語などがある。高等学校は大学進学を目標とする一般校と就職を目標とする実業系校の2種類が全国には1995校あり、一般校と実業系校の割合は約3:2、公立と私立の割合は約6:5となっている。また、韓国には初等学校と中学校の入学時には基本的に受験制度がなく、高等学校については平準化政策として、ソウル特別市や釜山広域市など一部地域では学区に基づく総合選抜制が採られており、私立高校を含めた全ての高等学校において、内申書と適性試験の成績、居住地域により広域自治体の教育庁によって振り分けられる。そのため、大学受験に大きく関わる高等学校に進学する際に、やはり評判の良い学校と悪い学校が存在するため、江南にある高校のように評判の良い学校に行くために引越しをする家庭が近年急激に増加したために、韓国政府は内申点による選択制度を取り入れたのである。よって、本質的な受験は大学受験のみとなるために、大学受験が過熱しているとされている。 ただし芸術高校・科学高校・外国語高校といった特殊目的高校も存在しており、ここでは英才教育が行われている。特殊目的高校には選抜があるが、多数が名門大学に合格するためエリートコースとして受験が熾烈になっている。
そして、韓国は日本よりもはるかに大学進学率が高いのである。2013年度の大学進学率を見てみると、日本は50.8%と2010年以降の進学率は徐々に下降してきているが、それに比べ韓国の進学率は71.3%と昨年より進学率は上昇しているのである。これには日本では専門学校として教えるが、韓国では大学として教えているという「進学率」というニュアンスの違いも存在しているが、それでも日本は2人に1人の進学率に対して韓国は10人に7人と、韓国の進学率は非常に高いと言える。この進学率は世界的に見ても非常に高い数字であり、世界第10位の進学率を誇っているのである。ちなみに、第1位はオーストラリアの96%、日本は第22位である。
また、図1のデータは各国が教育費用をGDP総額に対してどれだけ支出しているかという比率であり、その割合が大きいほどその国は教育に力を入れているという指標である。ここで注目したいのは、公的負担と私的負担の割合である。アイスランドやデンマークは全教育支出の約9割以上という高い公的負担が占めており、教育は公共が支えるものとの意識が感じ取れる。これに対して韓国は、アイスランドと並びGDPの8%を教育支出に当てている教育熱心な国であるが、その内訳はアイスランドとは非常に異なっており、全体の4割近くを私的負担分が占めるといる。つまり教育に対する支出の背景には、文化的要因が強く関わっているということが、公的負担と私的負担のバランスからも見て取ることができる。また、近年日本における大学進学率の減少傾向は、不況による家計部門の教育支出の減少や、職人文化等の様々な要素が混ざり合った結果と言える。
図1 学校教育費用の国際比較(対GDP比)
(注)各国における数値は2009年もしくは入手可能な最新の統計に基づく。
そして韓国も日本と同様に人材評価において、入学校や卒業校のブランドによって測られることが多いが、日本と異なる点は学力試験の内容も評価において重要視されている。
第2節 日本の教育制度の現状
ここで韓国の教育制度の比較のために、日本の教育制度の状況についても触れていく。現在の日本の教育制度は小学校6年、中学校3年、高等学校3年、大学4年であり、小学校と中学校は義務教育とされている。日本で初めて教育制度が作られたのは701年の大宝律令とされ、その後も貴族や武士を教育する場が存在し、江戸時代に入ると一般庶民の学ぶ寺子屋が設けられるようになった。小学校から高等学校までの近代的な学校制度が確立したのは明治時代である。第二次世界大戦後から現在の教育は、日本国憲法と教育基本法に基づいている。
そして日本は年齢主義のため飛び級はほとんど存在せず、就学猶予や原級留置もかなり少なくなっており、学年内の同年齢率が非常に高く、高等教育へは若いうちに進学することが多い。前期中等教育までの公立学校では、全児童に平等な教育を施すことを重視している。反面、個々の能力や学習の習熟度に応じた教育があまり行われてこなかったが、一部では習熟度別教育も行われている。進学競争では、韓国ほどではないが日本も受験戦争が近年激化してきており、特に高等学校や大学への入学試験の競争が激しくなっている。そのため、高等学校においては大学並みに学力による階層化が激しくなっている。しかし、入学さえしてしまえば学校卒業までのハードルは、韓国や欧米の教育機関に比べて比較的易しいとされている。日本と韓国の学校と自宅学習(塾なども含む)の比較をしてみると、日本の中高校生の学校と自宅学習の勉強時間は1日当たり平均約8時間であり、これに対し韓国の学校と自宅学習の勉強時間は約10時間以上とされている。日本の自宅学習時間は1997年の調査に比べても高校生で1時間、中学生では2時間ほど短くなっている。
また日本の風潮として人材評価において、学力試験の成績はあまり用いられず、入学校や卒業校のブランドによって測られることが多い。
第3節 早期教育
韓国では「良い大学に入る事が社会的に成功する道」だと考える人達が多くいる。こうした考えは大学入試を控えた高校生たちだけでなく中学生や初等学生、さらには幼稚園生の教育にも多く影響を及ぼしている。近年、韓国では満2歳から初期教育をさせる家庭が急増している。ハングルと算数の簡単な計算が一般的であるが、英語を習い始めている人もいる。また高校生は学校の授業は16時に終わるが、大学入試のため学校教育とは別に そこから塾に行ったり家庭教師を雇ったりして勉強する学生が多い。学校も23時ごろまで開放しており、残って自習する学生がほとんどである。
このように韓国では、大学受験のためにできるだけ早い段階から教育をさせるという状況が近年とくに激しくなってきている。そのため、高校生だけでなく幼稚園生にまで影響しており、韓国の子どもたちは幼少期から自由時間は減り、高校生などは深夜まで勉強するため健康にも影響を及ばしている。
第3章 韓国の受験
第1節 大学受験の概要
第3章 第2節でも述べたように、韓国では「良い大学に入る事が社会的に成功する道」だと考える人達が多くいる。そのため韓国では大学受験が人生を左右すると言っても過言でない。ここではその大学受験について詳しく述べていく。
2014年の大学修学能力試験は、11月13日に全国1215ヶ所の試験場で行われ、640,621人の受験生が試験に臨んだ。試験は1限が国語で80分間、2限が数学で100分間、3限が英語70分間、4限が社会・理科・職業62分間、5限が第2外国語・漢文40分間という時間割で行われ、受験生は8時から17時まで一日中試験に臨むことになる。
この大学修学能力試験は、日本のセンター試験のようなものであり、韓国のほとんどの大学が利用するため受験生はこの試験を受けなければならない。この大学修学能力試験の結果と高等学校が発行する生活記録簿、そして各大学が用意する面接や小論文、実技などの2次試験の結果を合わせ、受験生は合否結果を受け取ることになる。大学によっては大学修学能力試験や生活記録簿、2次試験などを課さない大学もあるが、ほとんどの大学ではこの3点から合否を判定している。
第2節 受験体制
韓国の大学入試において最も重要な試験が大学修学能力試験である。これは日本のセンター試験にあたり、この受験日には全国の高等学校が休日になるのである。そのため試験場の正門入口には後輩が温かいお茶やコーヒーを準備して先輩を応援している様子や、受験生の母が子どもの高得点を待ちながら正門前で祈る姿も見ることができる。そして大学修学能力試験の当日は地下鉄、バス、タクシーなどの運行回数が増え、まさにこの日は受験生のための日になるのである。さらに英語の聞き取りの試験時間にはクラクションが規制され飛行機の離着陸時間までもが調整される。これは数年前に空港の近くの試験場で飛行機のエンジン音で聞き取りに不公平が生じると問題になったためである。また、遅刻しそうな受験生が警察のパトカーやオートバイに乗って試験場に到着する姿も毎年見ることができる。これほど政府が受験生のために動くという事は日本ではないことなので、毎年日本のメディアでも報道されている。しかし毎年、警察のパトカーやオートバイに乗って試験場に到着する学生が後を絶たないのである。単純に寝坊などの受験生自体の問題で遅刻しそうな学生も中にはいるが、遅刻しそうな学生の多くが試験会場を間違えてしまうためである。ここで、なぜこのように試験会場を間違える学生が多くいるのか、という疑問が出てくる。これには大きな理由があり、数年前に大きなカンニングがあり、それを防止するために韓国政府が翌年以降から試験会場の開示を試験日の前日にするようになったのである。そのため試験会場を間違える受験生が多くいるのである。このカンニング問題については次の節で詳しく述べることにする。
第3節 カンニング問題
ではこの節では、第2節の最後で述べたカンニング問題について、手口や背景なども踏まえて見ていく。
今から11年前の2004年11月17日に実施された大学修学能力試験において、光州で携帯電話を使用した大規模なカンニングが11月20日に発覚し、この地域だけでも約200人の受験生が摘発された。この事件をきっかけに、カンニングは韓国全土に広まり、首都ソウルの一流大学をも巻き込むまでに発展し、ソウルやほかの都市でも多くの学生が関与していることが発覚し、韓国中に大きな衝撃を与えたのである。そしてこのニュースは日本のメディアでも大きく取り上げられた。
そして何よりカンニングの手口が個人的なものでなく、集団での組織的なカンニングで綿密に計画が練られて行われたという事実も、この事件が大きく取り上げられた理由の一つである。その手口とは、「選手」と呼ばれる成績優秀者、お金を出して解答を教えてもらう「不正受験者」、そして学校外から選手と不正受験者を仲介する「アシスタント」と呼ばれる3つの役割に分かれており、選手が試験会場から送った解答を、アシスタントが整理して不正受験者へ送るという手口であった。またカンニングに使用された携帯電話は、試験中に選手がアシスタントに解答を送りやすいように素早く操作ができて、かつ隠しやすい小型のストレートタイプと言われる携帯電話が主に使用された。選手の携帯電話は服の下の肩のあたりに隠されており、肩をかくなどの素振りをしながら携帯電話の操作をしていたという。この事件に加わった受験生は、この計画のために何か月も前から準備と練習をしてきたという。さらにこのカンニングは1科目25万ウォンという、学生には決して安くない金額が動いていることから、受験生の親が関与していたことも発覚したのである。
警察はこのカンニング事件にどれほどの関与者がいるのか、修能の日にやり取りされた携帯キャリア3社のショートメールと言われるSMSを約2万件調査し、結果200人ほどの受験生が関与していたと発覚した。12月14日には大学修学能力試験の成績が発表されたが、不正行為者たちには試験を無効にすることで成績表を廃棄処分するなどの措置が取られた。
これまで韓国の大手携帯3キャリアであるSK Telecom、LG Telecom、KTF はSMSデータをSK Telecomが1週間、LG Telecomが5~7日間、KTFが30日間保存していたが、この事件がきかっけで警察がSMSの内容を調査していることが発覚し、プライバシー侵害の議論がされたため、携帯3キャリアはこれまでサーバに保存していたSMSを、翌年1月からは一切保存しない方針を表明した。しかし修能不正対策特別委員会の会長は、「来年からは修能の日にやり取りされたすべてのSMSデータの保存を義務化する。」と述べた。これを受け携帯キャリア3社は、翌々日から「SMSのデータを1週間保存する」と発表したのである。
しかしこの事件は受験生だけでなく試験監督官にも問題があったとされており、大学修学能力試験の規則としては試験会場では携帯電話を所持しているだけでも不正行為扱いとされるはずであるが、教室内では試験の休み時間などに通話している学生を見ても不正行為扱いどころか、注意すら与えなかったという。また、「カンニングを発見しても、その受験生の人生を台無しにするかもという負担感から黙認してしまった。」などという告白をした監督官も現れたという。
そしてこのカンニング事件のメンバーの中には、1年前の試験でも同じような手口を使った物も見つかったことから、カンニングは最近に始まったことでなく代々続いてきた可能性が高いとされた。替え玉受験やPCから複数の受験生へ一括して解答を送信するウェブ・トゥ・フォン方式と言われるカンニングなど、現在でも続くカンニング問題に対して教育人的資源部は、2005年1月に修能不正行為防止総合対策をまとめ、試験で不正行為をした者の受験資格制限を延長し、3年間は受験できないようにした。このほかに、携帯電話の電波遮断機、電子検査台、金属探知機などを試験会場に設置する案、試験監督官を増やし、試験用紙の類型をより多様化するなどしたのである。その一つとして、試験会場を試験日の前日に開示するという政策がとられたのである。
試験の成績がよくないと親に申し訳ないと思い自殺をしてしまう学生もいる一方で、このように不正に受験をした事件が起こることで、真面目に勉強をして試験に臨む大多数の受験生には迷惑極まりないのである。韓国の教育事情は大学修学試験を最重要視するあまり、本来あるべき教育の目的から大きく脱線してしまっているように感じられる。
第4節 受験のための整形
韓国といえば『受験』と同様に『整形』も非常に有名で、韓国は美容整形に対する考え方が日本とは少し違い、美容整形に対する肯定的な考えを持っている。そこで、受験のために整形をする学生が近年急激に増加し始めたのである。整形が急激に増加した理由には2つあり、1つは受験の際の2次試験での面接で、より良い外見的美しさを求める人が多くなったことからである。就職活動で企業が女性を採用する際に、美しさが重視される場合もあり、中にはいい企業に就職するために何百万円という整形をして就職活動に臨む人も少なくない。他にも履歴書の写真に修正を加える就職活動者が増え、社会問題になったこともある。このように就職の際の面接で外観的要素が重要視されているなら、大学受験の面接でも外観的要素が必要であると考えることは何もおかしなことではないのである。
そして、近年流行しているのが舌の整形である。2014年の大学受験改革法案では、英語の比重が以前よりも明らかに大きくなり、韓国語の発音体系は英語の発音体系との差が比較的大きく、韓国人は特に会話が苦手とされている。そのため、口頭試験が課されているIELTSやTOEFLなどの英語の試験では、いずれも下位に低迷しているのが現状である。そこで、子どもの英語の発音を良くするために、舌の整形手術を受けさせることが流行しているという。この手術は舌の根元の舌小帯を切除することで、舌の動きを滑らかにするというものである。韓国では数年前から多くの親が子どもにこの手術を受けさせているという。これが2つ目の理由として挙げられる。
このように大学受験のために整形をする事が現在の韓国では普通になっている。これは韓国の美容に対する意識と最終的には就職ためにと行われていることである。就職は韓国の教育だけでなく、このような整形という分野にまで関わってきていることがここからわかる。
第4章 韓国の就職状況
第1節 韓国の就職状況
近年、韓国でも就職活動の際において大学の名前がブランドとされていた時代が少しずつ変化し始めている。
現在の韓国では就職難があまりにも深刻なため、大卒者が高卒者と偽り高卒者向けの職場を希望する大学生や、アルバイトに明け暮れる「高学歴アルバイト族」と呼ばれる人も少なくない状況にある。実際に数字を見てみると、中央日報が20社の2014年の下半期の採用人数を調査したところ、前年下半期に比べ約25,000人減り17,621人と、12%ほど減少したという結果が出たのである。
専攻別の就職率にも大きな差が出てきている。教育部が2013年8月と2014年2月の大卒者の専攻別の就職率を調査した結果、専攻37学科のうち平均就職率が60%以上であった学科の89%が医療・保健・工学系であった。また人文系卒業者を採用しないと企業が増えた。ヒュンダイ自動車(現代自動車)は大卒定期採用で理工系卒業者だけを選び、サムスンとLGも人文系卒業者の採用をなくした。韓国で「SKY」と呼ばれるソウルの上位大学のソウル大学、高麗大学、延世大学の人文系より地方大学の工学系の就職率が著しく高かった。釜山大学と郡山大学の機械・電子工学専攻は共に就職率は80%を超えており機械工学・自動車工学は全国的に見ても就職率の平均が70%を上回っていた。その一方で、英米語学・文学は亜洲大学、光云大学、ソウル大学などの首都圏大学は50%を下回った。「SKY」大学の数学科の就職率も40%まで下落している。
韓国では日本のように新卒一括採用という制度はなく、企業で長期のインターンとして勤務する事や、海外のボランティアで経験を積む事など、実務に適した即戦力が求められている。大韓商工会議所の雇用労働政策チーム長のパク・ジェグン氏は「出身大学を見ないブラインド採用が一般化し、実務に適した即戦力となる工学系の出身者が好まれているが、最近の求職者はTOEICのようなスペックのみ磨かれており実務に適した人材が少ない。」と指摘した。
そしてグローバル化によって大企業間の競争力は強くなり、すべての経済がソウルに集中することで、ソウルでの就職はより厳しいものとなってしまう。そうなると若者たちはソウルでなく海外に目を向け、海外での職場を探すようになる。そのため現在の韓国では英語はできて当然であり、いい大学をいい成績で卒業するだけでは就職は難しい状況にある。このように大学のブランドだけで就職先が決まる時代が変化してきているのである。
第2節 受験に対する意識の変化
前節で現在の韓国の就職状況について述べたが、学歴だけが就職の決め手となる時代が変わりつつあり、これによって受験に対する意識も変化し始めている。TOEICやTOEFLの「スコアのための英語」でなく、「使える英語」を身に付けるために海外への留学者数は年々増加しており、2012年には約123,000人で留学者数が世界で3番目に多いとされた。また留学先の1/3以上がアメリカである。このように単にブランド力だけで受験する大学を選ぶのでなく、留学のプログラムやサポートの多い大学を希望して受験する学生も最近では少なくないようだ。
また、近年では『透明のカバンのヒモ』という名前で活動する、修学能力試験拒否団体もできている。彼らは2011年11月12日の修学能力試験の数学の試験が行われる午前11時に、ソウルの鍾路区の清渓広場で集まり記者会見を開いた。団体の代表者であるパク・コンジン氏は「未来のためという理由で現在を犠牲にしなければならない。その未来の中ではまた未来のためにと、その時を犠牲にしなければならない現実があまりにも残念だ。」と試験を拒否する理由を明らかにし、学閥と社会の不平などを意味したカバンのヒモを切るというパフォーマンスをした。
このように良い大学に入る事だけが全てでないと考える学生も増えてきているのである。
第5章 まとめ
第1節 結論
前章で述べたように、近年では学歴だけが全てでないと考える企業や学生も増えてきてはいるが、「良い大学に入る事が社会的に成功する道」だと考える韓国の風潮はそう簡単に変わるものではなく、依然としてこのような考えを持っている人が大半である。そのため早期教育や受験のための整形が過激になり、大学受験を控えた高校生だけでなく中学生や初等学生または幼稚園生など、幼少期から勉強のために自由時間を奪われているのは事実であり、この負担が受験生を自殺に追い込んだり健康面などにも大きく影響していることも事実である。
この負担を軽減させるには、韓国政府が受験生の負担を軽減させる何らかの政策をとることである。現在は大学修学能力試験の日にパトカーで遅刻しそうな受験生を会場まで送り届け、バスや地下鉄、車のクラクションや飛行機の離着陸を規制して、受験に対して受検生をバックアップしている。もちろん受験生にはこのような政府のバックアップは有難い事であるが、それは政府が「良い大学に入る事が社会的に成功する道」という考えを肯定してしまっていることになる。政府が変わらないことには国民の考えが変わるわけもなく、この風潮が変わることもないのである。
その具体的な政策としては、日本のように受験制度を大学受験だけでなく高等学校や中学校、初等学校でも採用すること。現在の韓国では大学受験だけしかないために、1回の試験が人生を左右すると考えられてしまう。そこで高等学校や中学校または初等学校から受験制度を採用することによって、大学受験への負担を軽減することが可能である。しかし、この政策を取ることで幼少期の受験への負担は大きくなることも見込まれるが、すでに早期教育が当たり前となってしまっている韓国では、受験回数を増やす事で1回の試験への負担はかなり軽減することが可能になる。
そして何より、良い企業に就職することが韓国の学生たちにとって最終ゴールであり、良い企業に就職するためには良い大学を卒業することが強いられているため、このように幼少期から大きな負担と不安を抱えさせられている。そこで企業側がもっと就職の際に学生たちの実務的な活動に対して大きく評価し、求人数を増やすことで高学歴アルバイト族や就職難の学生数は確実に減らすことが可能であり、幼少期から大きな不安と負担を軽減することも可能になる。しかし、企業側もいきなり求人数を増やすことは不可能であるため、やはりここでも政府の力が必要不可欠となってくるのである。
このように、まずは韓国政府が主体となって韓国の風潮を変えることこそが、最も効果的で韓国の受験生の負担を軽減させる一番の近道なのである。
第2節 おわりに
これまで韓国の教育制度に触れ、いかにして受験生の負担を軽減させるかと述べてきたが、韓国ほどの学歴社会でないとしても日本にも近い将来このような受験戦争によって日本の学生たちも大きな負担を抱えさせられる時代が来る可能性もある。そのような時代が来た時に日本政府がいかに迅速に対応するかが、これからの日本の課題となる。
第6章 参考文献
曺美庚, 林炫情, 金眞(2010年1月15日)『韓国社会を読む』朝日出版社
『朝鮮日報』(韓国語)(2014年12月4日記事)
『日本経済新聞』
「留学生、世界で400万人突破 アジアの新興国台頭 12年で倍増」(2014年6月14日記事)
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